「Sushipico Set」OSSプロジェクトへの寄付のご報告

2024-10-22

2022年に展開したプロジェクト「Sushipico Set」に関連して、総額 $15,943.54 (およそ239万円)を、計88のOSSプロジェクトへ還元しました。今回はその詳細についてのご報告です。 (English version)

Sushipico Set

2015年に生まれた「Sushipico(すしぴこ)」は、ドット絵で描かれたキューブ型お寿司。主にイベント会場で、グッズや体験型のコンテンツとして展開してきました。

2022年に公開したプロジェクト「Sushipico Set」はその活動のひとつで、当時注目を集めていた非代替性トークン(NFT: Non-Fungible Token)の仕組みを利用したアート作品です。

このプロジェクトの目的は、大きく2つありました。

目的1:お寿司とドット絵の魅力を世界に発信する

まずひとつは、お寿司の魅力やドット絵のかわいさを世界に発信すること。

Sushipico Setは6個のお寿司がセットになっており、さまざまな組み合わせを楽しめるようになっています。触れたお寿司の種類によってさまざまな反応を示す、インタラクティブなアート作品です。

これまでのSushipicoは、イベント会場でしか出会えない、お祭りの出店のような形態で展開してきました。これにNFTという新たな技術を組み合わせることで、小さなおもちゃを手元に置いて楽しんでもらうような感覚をお届けできたのではないかと思っています。

目的2:OSSプロジェクトへの還元

今日、われわれがプログラミングをする際は、ほぼ必ず誰かが作ってくれたライブラリのお世話になっています。Sushipico Setも同様で、先人たちの築き上げてくれた礎があるからこそ、われわれは作品そのものの制作に集中できるのです。

このライブラリの中には、「オープンソースソフトウェア(OSS: Open Source Software)」と呼ばれる形態のものが数多く含まれています。

その名のとおり、ソースコードを公開=オープンにすることで、共通するテーマに興味を持った人たちが集い、開発を進めていくプロジェクトです。多くのOSSプロジェクトの運営が有志によって支えられており、われわれはその成果物を無償で利用させてもらっています。

こう聞くと素晴らしい仕組みに思えますが、よいことばかりではありません。わかりやすい例として、現代のOSSにおける構造の問題をよく表した有名な絵があります。

xkcdより「dependency」

無名の開発者が、誰からも感謝されずに2003年から保守しているプロジェクトによって、すべてのモダンなデジタルインフラが支えられているという危うい構図。

個人の趣味で開発をはじめたライブラリが、大きなプロジェクトから参照されることでバグ修正や脆弱性対応の圧に晒され、罵倒され、対価に見合わない責任や重圧に押しつぶされてしまう…といった悲しいケースがたびたび見られます。1

規模は違えど自分自身も似たような経験をしており、好きではじめたはずのことがいつの間にやら義務となり、人々に消費はされるが対して報われない…という状況に葛藤を覚えることもしばしばです。

今回のプロジェクトでは、売上の一部をそんなOSSの世界へ広く還元したいと考えていました。OSS活動は持久走のようなものであり、一時的な支援では根本的な解決にはなり得ませんが、それでも何もないよりはずっとマシなはずです。

寄付について

Sushipico Setをリリースする際、プロジェクトの売上の一部をOSSプロジェクトへ還元する旨を明記していました(FAQを参照)。

ここからは、どのような基準で寄付対象を選定し、結果どのくらい還元できたのかについて書いていきます。

対象選定の仕組み

Sushipico SetはWeb開発の技術で構成されており、パッケージマネージャー「npm」によってパッケージの依存関係が管理されています。package.json というファイルの dependencies などを参照すれば、依存しているパッケージがわかります。

依存関係のイメージ

それらのパッケージもさらに package.json を持っているので、どんどん辿っていくことで依存関係、つまり「どんなパッケージの助けでSushipico Setが成り立っているか」を芋づる式に抽出することができます。

ところで、OSSプロジェクトの寄付というものは、わかりやすく有名どころに寄付が集中する傾向があります。寄付の意識や仕組みは時代とともに少しずつ整ってきているものの、末端の地味で目立たないプロジェクトまで支援が行き渡らないという問題は依然として残されています。

そこで、今回は依存関係をもう1段深掘りして、著名なパッケージが依存しているパッケージにまで対象を広げました。2

また、自身のクリエイティブコーディング人生に大きく貢献してくれたProcessingについても、今回のプロジェクトへ間接的に貢献してくれているものとみなして、例外的ではありますが寄付の対象として加えています。

寄付の実行

寄付の実行に至るまでは、困難の連続でした。

暗号通貨は未だ価格が不安定で、法定通貨とのトレードの機会を見誤ると寄付の金額が大きく減ってしまいます。これに加えて、法人の体制変更や新規口座の開設、慣れない暗号資産の移行などさまざまな障壁が重なることで、プロジェクトのローンチから2年という月日が流れてしまいました。

寄付の詳細はこちらのシートにまとめておきましたので、ご興味のあるかたはどうぞ。

寄付の対象となったプロジェクトは92、想定額は $16,690.36 でしたが、記載されている窓口が見つからなかったものが2件、金額の下限が設定されており届かなかったものが1件、こちらの不手際で同一プロジェクトを重複して選定しまったものが1件あり、最終的に計88のプロジェクトに対して総額 $15,943.54 (およそ239万円)を還元する結果となりました。

寄付の手段としては、GitHub SponsorsOpen Collectiveがそのほとんどを占めています。本来であればEthereumのまま寄付するのが透明性の観点で最良でしたが、対応していないところがほとんどでやむなし、といったところです。

総括

Sushipico Setの公開から2年が経ち、NFTを取り巻く環境も大きく変化しました。一般に普及したとはまだ言えない状況であり、一定の反感があることも理解できるところではあります。

それでも今回、このような形でOSSの世界に対して、小さな還元ができたことをうれしく思います。

すべての創作活動が持続的なものとなるよう、願うばかりです。

追記:データの保持方法の見直し

Sushipico Setの公開から数年が経過したこの機会に、データ保持の方法を見直しました。

NFTでは一般的に、IPFSという分散型のデータ保持の仕組みを利用することが多く、本プロジェクトでも当初これを採用していました。一度アップロードされたデータは、その所有者にかかわらず誰かが保持することで恒久的に残り続けるという点で、非中央集権の性質をもつ暗号通貨やNFTとの相性が優れています。

一方で、保持するためのコストが相応にかかること、アクセスの少ないコンテンツほどデータの読み込みに時間がかかり体験を損ねること、などが問題となっていました。これらを解決するために、今回Sushipico Setのデータを独自ドメイン配下へ戻す処理を行いました。

データの寿命が作家に依存してしまう点は懸念材料ではありますが、刻々と状況が変わっていくなかでIPFSのデータを維持していくか、あるいは大切な作品のひとつであるSushipicoのドメインを維持していくかで考えると、後者のほうがより確実性が高いと判断した次第です。読み込み時間が改善することで、インタラクティブな作品としての体験が向上する点も、後者を選択する大きな理由のひとつとなっています。


  1. https://dev.to/sapegin/why-i-quit-open-source-1n2e, https://github.com/bzg/opensource-challenges?tab=readme-ov-file ↩︎

  2. 理想をいえば、依存関係をより深く掘って末端まで還元すべきではありますが、100弱ある寄付先の手続きで時間や精神力を消耗すること、対象を増やすと1件あたりの還元額が小さくなってしまうこと、などのトレードオフを考慮して現方針を選択しました。GitHubあたりが率先して、依存関係を考慮した支援の仕組みを作ってくれたらいいのにな…とずっと思っています。 ↩︎

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