2023年10月21日にドット絵のイベント「THE PIXEL STREET」が開催された。自分はFLUFFLOPというユニットの一員として、アプリ「うさぎとぷーぷ」を制作・展示した。その制作過程をここに記す。
コロナが流行する数年前までは、Pixel Art Parkという同じくドット絵の大型イベントに出展しており、そこでは「すしぴこ」というキューブ型のお寿司を題材にしたアプリを展示していた。この際の制作記録も残っているのだが、
小綺麗にまとめすぎたのか、あまり納得のいく記録にならなかった。制作活動ってもっと泥臭いもののはずだ。
今回うまくいくかどうかは時間が経ってみないとわからないが、それはそれとして誰かの制作や思考の過程を見るのはとても学びがあるし好きなので、懲りずに記録を残すのである。
数年前からうさぎと暮らしているのだが、とにかくかわいい。
毎日癒しを与えてくれることに感謝は絶えず、この気持ちを形にしたい・うさぎ界に還元したいという思いがあった。今回はドット絵のイベントなので、うさぎのドット絵表現を模索してみることにした。
うさぎはかわいいので、うさぎを題材としたキャラクターはすでに星の数ほど存在している。自分たちにしかできないことはなんだろう、と考えたときに出てきた強みが「うさぎと暮らす解像度」である。
朝から晩までうさぎの側にいるからこそ得られる情報がある。うさぎは何をどんなふうに食べる?走りかたは?感情表現は?撫でたらどんな反応をしてくれる?そのすべてがリアルな質感を伴って手元にある。
一般的に、デフォルメして省略するほど表現できることが少なくなっていくので、リアルなふるまいを再現できる解像度と頭身を模索してみることにした。1
はじめのほうは、描きやすそうな真正面や真横からの絵を試作していた。
これは平面的で描きやすいが、素材としては扱いづらく活かしかたが見えてこない。マウスカーソルを含めてあれこれ試しているうちに、斜め45度見下ろしの構図に辿りつく。
これなら奥行きを活かせるし悪くないかも?手応えを感じはじめる。しかしこの構図はいろいろと面倒なことになりそうだ。
すしぴこもそうなのだが、クォータービュー(isometric)や3/4(three-quarters)など所謂2.5Dと呼ばれる座標系(3Dっぽく見えるけど2Dで表現されている)は、世にある資産が活かしづらい。
例えば、ゲームエンジンにデフォルトで搭載されている機能のほとんどは純粋な2Dや3D向けなので、2.5Dの世界では自前で用意しなければならない処理が多くなるのだ。
とはいえ少し面倒というだけで、初期のすしぴこだってゲームエンジンに頼らず作っているのだし2、やればよい。
試しにこの視点で走るモーションを描いてみる。
まだぎこちないけど、このまま磨いていけば大丈夫そうという手応えは得られたので、次のステップへ進むことにした。
さて、このうさちゃんを活かしてどのような形にまとめるかが悩ましい。
これまでの出展経験から、ブースに立ち止まる一瞬でルールを理解し楽しんでもらえるミニゲームのようなアプリがよいと考えていた。リズムゲームというアイディアも挙がったが、複雑すぎて子どもに楽しんでもらえなかった苦い経験があったので、もうすこし単純なものを探したかった。
うさ飼いならではの発想は何かないだろうか…と、うさぎとの暮らしを振り返っているときに思い浮かんだのが「うんち」である。
うんちと聞くと汚くて臭いものというイメージが一般的だが、うさぎのそれはまったく異なる。うさぎは2種類のうんちをするのだが、普段人間が目にする硬便は固くてほぼ無臭である3。(強いていうなら、カップヌードルの謎肉の香りが近い)
なので、人間は平気でそれらを手で回収するし、何ならときどき並べて絵を描いてしまう。
無意識に梱包材のプチプチを潰してしまうような、誰に頼まれずとも思わずしたくなってしまう行為。ここに大きな魅力が秘められているのではないか。
まずはうさぎがうんちを射出するようなプロトタイプを組んでみた。すでに結構かわいくて心が踊る。
さらにそれらを掴む処理を実装。
タッチ操作の端末において、掴んだうんちが小さすぎて指で隠れてしまうので、この当時はゴム紐のようなものでうんちを間接的に掴むようにしていた。(うんちを細かく操作できないため後に不採用となっている)
この時点ですでにうんちアートが再現できるようになっているが、だいぶ手間のかかる作業になってしまっている。イベント向けにはもっと短時間でおもしろさを感じてもらえるような工夫が必要だ。
うんちを片づけること自体も楽しいので、画面外に運ぶことで片づけられたらどうだろう?というアイディアを試してみることにした。また、ひとつずつ運んでいてはきりがないので、まとめて片づけられるツール(扇風機や掃除機)を導入してみた。ついでに、片づけに目的を持たせるためにうんちカウンターも導入。
一気に片づける気持ちよさはたしかに出たが、ツールを導入したことでモードの切り替えが発生し、画面も操作も複雑になってしまっている。
さらに、途中でロボット掃除機を実装してみたりもした。
が、これもおもしろさの本質ではないということでボツ。
複雑さの増加はコンセプトに反するので、ツールの導入は見送り。最終的にはゴミ箱だけ配置したシンプルな形に落ちついた。
うんちはまとめて掴んで捨てられるようにすることで、操作性と爽快感の両立も実現した。仕上げにうさぎを撫でられるようにして、イベントに向けたアプリはほぼ完成といった感触になった。
イベント当日のシミュレーションを脳内でしてみると、放置して溜まりすぎたうんちをどう掃除するかという課題があった。あまり汚すぎる状態で放置するのも見栄えが悪いし、とはいえ出展側が延々と片づけていては、ブースに来てくれた人の邪魔になってしまう。アプリのシンプルさはそのままに、一気にうんちを片づけられる方法が求められていた。
しばらく悩んだ末に出てきたのが、デバイスを傾けてうんちを転がすアイディアである。
これが想像以上に気持ちよく、お客さんにも体験してもらいたい!と思える裏技になった。この機能の実装を終えて、イベント展示用のアプリが完成となった。
うさぎは割と無表情で、例えば犬や猫などと比べても感情が読みづらい。けれども、長い時間一緒に暮らしていると、実に表情豊かなのだということがわかってくる。そんな繊細な表情も再現したかった。
各うさぎには感情のパラメーターを持たせており、その状態によってさまざまな行動をするようにしているが、漫画的な誇張した感情表現はあえて取り入れていない。
当日の反響は…それなりによかったように感じる。グッズもほとんど売り切れてしまうほど好評でとてもありがたかった。
ドット絵のイベントだったにもかかわらず、うさ飼いさんが意外に多く、たっぷり詰め込んだ「うさ飼いあるある」を楽しんでもらえたようだ。飼ったことがない人も、ひたすらうんちを片づけるというのが新鮮だったらしく、それはそれで楽しんでもらえたようである。すしぴこは「寿司」というテーマが幅広い人に刺さったが、今回は「うんち」が同じような役割を果たしてくれたようだ。
実際にたくさんの人が触ってくれたことで改善点も見えてきた。
うさぎの撫でもうんちの回収もドラッグ操作なのだが、これが特殊な操作であることをすっかり失念していた。単にタップして様子を見る人が多かったので、ここはガイドを出すなり、素直にタップへの反応を実装するのがよさそうだ。
また、ユーザーのアクションに対する反応は早いほうがよい。リアルにこだわりすぎるあまり、例えばリラックスについては「しばらく撫でる→リラックス度が高まる→くつろぐ」という実装になっていたのだが、少しだけ触って何も反応がないので諦める…という場面がたびたびみられた。反応が早くないと人と対話できない。
次回はよりパワーアップしたものをお見せできるようにがんばりたい。アプリ化の要望もたくさんいただいたので、ストアでの公開予定はなかったのだが、どのように仕上げたらよいのだろうかと考えているところだ。
自分は昔使っていたツールの名残で、複製を重ねてずらしながら絵を模索していく癖がある。今回はこんな感じになった。
本格的にアニメーションを描くフェーズに入ってからはAsepriteという別のツールを使っているので、完成まではこれの何倍も試行錯誤をしているわけだが…。いずれにせよ、だんだんこの絵が広がっていくさまは、普段見えない自分の努力を可視化・肯定してくれているようで、じんわりとうれしい気持ちになるのである。
後にSNS上で、「ドット絵の解像度は低いけどうさぎの解像度が高い」という声をいただき、ありがたいと同時にすごくうまい表現だと感心した。 ↩︎
すしぴこは2019年の作品のみUnityを採用している。今回のうさぎとぷーぷはGodot Engineを採用。いろいろなゲームエンジンに触れて知見を広げたかった。 ↩︎
もう1種類のうんちは盲腸便といって、こちらは普通にくさいのだが、健康なうさぎは肛門から直接それを食べてしまうため、われわれ人間が目にする機会はほとんどない。 ↩︎