さいきん「NFT」の文脈で、ジェネラティブアートがにわかに注目されています。このたび自分もNFTとして作品を出すことになりまして、あらためてジェネラティブアートとパラメーター調整について書き残しておきたいと思います。
近ごろ見かける機会の増えてきた「NFT」というキーワード。ブロックチェーンの技術によってデジタルデータに非代替性が付与され、現実世界のモノと同じような感覚で所有1や譲渡が可能になりました。
現実世界では、モノをお店で買ったり、メルカリなどで売ったりできますが、デジタルデータでも同じことができる世界が広がりつつあります。現実世界の個展で作品を購入できるのと同様に、デジタルアートをデジタルのまま購入、つまり所有してもらえるようになるわけですね。
「無限に複製できるデジタルデータを所有?何を言っているんだ」となりそうですが、実際に触ってみると案外しっくりくるもので、興味深くキャッチアップを進めています。
今回ご縁がありまして、@toshiaki_takaseさんが取りまとめる「function draw()」にて出品することとなりました。自身としてはじめてのNFT作品となりますが、ここからどうなるのか想像もつきません。行末を見守りたいと思います。
「Popping Jellies」は、3色のゼリーがはじけたりくっついたりする様子を眺める作品です。触って楽しめるインタラクションも組み込んでおり、その触り心地は、汁物の油の粒をつついてまとめて大きく育てた古の記憶を蘇らせます。
ゼリー間に引力/斥力を持たせて物理演算することで、ゼリーのような振るまいを実現しています。過去に公開したジェネラティブアートの教材「ZERO-PDE」でいうと、以下の分野の発展にあたります。
本作品の起源は、5年前に制作して気に入っていたスケッチ「Popping Jelly」です。これで当時の精一杯のはずですが、久しぶりに眺めてみると粗が目立ちますね…。
今回はコードの見通しをよくするためにp5.jsで書き直し、かつ数年分の成長を詰め込んで仕上げてみました。
ジェネラティブアートの完成度を高めるためには、パラメーター調整が欠かせません。
パラメーターの調整は、コードを書き変えて都度リロードして検証…の繰り返しでも構いませんが、調整用のGUIを使うのが便利です。
パラメーターの組み合わせを素早く連続的に検証できるので、より短時間でよりよい結果を得ることができます。
自分はこのパラメーター調整(とそのUI)の好きが極まった結果、UIライブラリ「Tweakpane」を自作するに至りました。
実は先の作品にも、パラメーター調整の機構をあえて残しています。スケッチのURLの末尾に ?debug
をつけてアクセスしてみてください。
右上に表示されているパネルが、実際に調整に使用したUIです。試しにいじってみると、パラメーター次第で結果が大きく変わることを体感いただけると思います。
パラメーターを変えることで無限に表情が出てくる…。ジェネラティブアートの醍醐味です。
range
と force
が、ゼリー間の力に関するパラメーター。弱すぎるとゼリーにハリがなくなり、強すぎると暴走してまとまりがなくなってしまいます。
size
は名前のとおりゼリーのサイズに影響します。ばらけすぎず、不安定すぎない、ほどよいぷるぷる感の出る塩梅を探ります。
t
, dt
が周期に関するパラメーター。本作品では「眺めていて飽きない」と「触って楽しい」を両立させるため、三角関数を使って静と動のフェーズを繰り返すようにしているのですが、その設定と状態をここで可視化しています。
friction
, transfer
が時間によって静と動を行き来するパラメーター。それぞれ空気抵抗と、ゼリー色が変化する頻度です。空気抵抗の計算は簡易的なものですが、物理演算の世界での暴走・発散を抑制する重要な役割を果たしてくれます。
元のスケッチには他にもいくつかのパラメーターがありましたが、パネルで試行してみた結果、今回表現したかったものには不要であると感じたので外しました。これもパネルを組み込んだからこそできた判断といえるでしょう。
このような表現の裏舞台は、一般的には仕上げの最終段階で取り払ってしまうのですが、今回はあえて作品に残すこととしました。
調整用パネルのTweakpaneがアイデンティティの一部であるというのもありますが、何よりもジェネラティブアートとパラメーター調整の関係性も含めて作品としたい、という意思を込めています。
今回のPopping Jellies以外にも、水面下でいくつかプロジェクトを進めていまして、もう少しでお知らせできるのではないかと思います。引き続きがんばってまいります。
とはいえ、法的な観点では「所有」には相当しないとのこと…。まだ新しい分野ですし、仕組みの整備が待たれるといったところでしょうか(参考:「所有権はない! 関弁護士が語った「知財・契約の観点から見たNFTマーケットプレイスの課題と未来」とは」) ↩︎