今年も無事、ドット絵の祭典「Pixel Art Park」への出展が終了しました。後片づけも少しずつ落ちついてきたので、キューブ型のドット絵お寿司「すしぴこ」がどのような過程で現在の展示スタイルに至ったか、その設計思想などを書き留めておこうと思います。
「Pixel Art Park」は、1年に一度開催されるドット絵の祭典。回を重ねるごとに大きくなっていき、いまでは日本最大級、企業も参加して体育館を埋め尽くすほどのスケールに成長しました。
第1回はカメコとしての参加でしたが、ご縁があって第2回からは出展者および運営メンバーの一員として参画することになりました。
はじめて出展が決まった際は、何を題材にして、それをどのように見せればよいのか…とても苦悩しました。
ドット絵が好きとはいえ、界隈での知名度はほぼゼロですし、これまで育ててきたキャラクターもなし。まったく下地のないコンテンツで参戦しなければなりません。
ネタ探しのため、過去に描いたドット絵を掘り起こしているときに、ふと目に留まったのが「キューブ型のフルーツ」でした。
こういった制約のかかったデフォルメが個人的には大好きで、同じフォーマットに落とし込まれる美しさ・かわいさには大きく心を動かされます。
もっとバリエーションを出せないだろうか?他の魅力的な題材はないだろうか?…熟考の末に辿りついたのが「お寿司」でした。
ここでお寿司という題材を選んだことが、最終的にとてもよい結果をもたらしてくれました。
当初は「Sushi cube」という仮の名前がついていましたが、味気なく冷たい印象を受けるので、より検索しやすく、発音しやすく、親しみやすい愛称を検討した結果、ひらがな4文字相当の「すしぴこ (Sushipico)」になりました。
(ところで、公式ページのURLが「sushipi.co」なんですよ。めっちゃかわいくないですか??)
他のイベントブースの様子を観察して感じるのが、来場者が足を止めてくれるのは本当に一瞬だということ。イベントが大規模になりブースが多くなるほどこの傾向は顕著になります。少しだけ眺めて興味がなさそうと判断したら、すぐに次のブースへ流れてしまいます。
その一瞬――時間にしておそらく数秒――で心を掴めるかどうかが、運命の分かれ道になるのです。訪問者の心を一瞬で掴むために必要なことは:
これらを踏まえた結果出てきた結論は…「すしぴこを題材としたミニゲームを設置する」ということでした。
初出展から継続して展示しているのが、流れ続けるお寿司を作るゲームです。
画面をタップするとキュウリが落ちてくるので、タイミングを合わせて上手にかっぱ巻きを作ります。(画面左上のボタン以外を押しても反応するようになっています)
展示中はずっとお皿が流れっぱなし。タイトル画面やリザルト画面などのいわゆる「モード」は一切ありません。
ルール説明は一切不要なほどシンプルで、説明的な文字列はありません。実際、ゲームを触ろうか迷っている人には「お寿司を作るゲームです」「ひとまず触ってみてください」程度の声かけで十分に理解してくれました。
つまり、いつでも触れる準備ができており、かつ一度でも触ればその結果からルールやおもしろさが理解できるようになっている、ということです。
小さな(おそらく4–5歳の)子どもたちも夢中になって遊んでくれるので、意図どおり作用してくれているのだと感じています。子どもの反応はとても素直で正直です。ここがうまくいっていれば、ひとまず最初のステップはクリアといったところでしょうか。
先述のゲームはありがたいことに毎回好評でしたが、個人的には改善点をいくつか見出していました。
ひとつは、食べものなのに硬い印象を受けること。もっと質感にこだわって、やわらかな親しみやすさを出したいという思いがありました。
もうひとつは、思い出の保存やシェアに不向きだということ。お皿は絶え間なく流れ続けているので、せっかく作ったお寿司も容赦なく流れていってしまいます。このため、作ったお寿司のおもしろおかしさを保存・共有したいと思った人は、作ったあとに慌ててスマホを構えたり、スマホで撮影しながらぎこちなくプレイしたりしていました。
まずは最初の改善点である「やわらかさ」を出すために、お寿司の形状に変化を加えました。以前はクォータービュー(斜めから見下ろす方式。アイソメトリックとも呼ばれる)だった視点を、ほぼ3/4ビュー(真横から見下ろす方式)に変更しました。
これにより変形の自由度が向上。比較的低コストな計算でやわらかさを表現することができるようになりました。(クォータービューでの演出は意外と難しいんですよね…)
次に、「リズムに合わせてお寿司を作る」というルールをひとつだけ追加し、リザルト画面を設けました。前作ではあえて排除したモードでしたが、シェアするという行動に着目した結果、しばらく残っているのが望ましいのではないかという仮説に基づいています。
結果はまずまず。予想どおり写真に収めてくれる人も増えてうれしい反面、やや難しくなったルールが一部の対象者を遠ざけてしまった…といった感触です。
話は変わりますが、今回の新作には裏テーマが込められています。それは、「他人の目を気にするな。真の評価は自分の心の中にある」ということ。
創作活動をしていると、どうしても他人の評価が気になってきてしまいます。作ったからには褒めてもらいたいですし、正直バズったらうれしい。けれども、そうやって周囲の評価に一喜一憂しているうちに、いつの間にか他人の顔色をうかがいながら創作をしている自分に気づきます。
でも…元を辿ってみると他人なんか関係なくて、自分がやりたくてはじめたはずなのです。真の創作活動とは、「作りたい!!」という内なる衝動と向き合うことではないか、というのが最近の持論です。
なぜ作るのか?それは「自分自身が作りたくてしょうがない」から。
そんな想いから、このリズムゲームでは評価を一切しないようになっています。タイミングがぴったりでも「PERFECT」の文字は出さない。リザルト画面に数値的なスコアも出さない。ランキングもありません。そこにはただ、自分の作ったお寿司たちがあるだけです。どう受け入れるかは各々に委ねられています。
できあがったお寿司は、誰の目を気にすることもなく、自らの心の中でじっくりと味わってほしい。そんな裏テーマが、今回の新作には込められています。