深澤直人「デザインの輪郭」。 知人にオススメされたので読んでみた。
無印良品や±0などのデザインを手がけるプロダクトデザイナー深澤直人氏が、自身のデザイン観について語った本。
触り心地のよいハードカバー、白黒2本の栞紐。 装丁にこだわりを感じる。
自分が深澤氏のデザインに持っていたイメージは、「シンプル」「洗練」「無垢」といった感じ。 無印良品のCDプレイヤーなんか、お店ですごい存在感を放っていた。
この本で、どのようなデザイン観を見せてくれるんだろう。 期待に胸を膨らませつつ、読みはじめた。
正直なところ、数ページ読んだ時点で「あぁ、これは失敗したな」と思った。
書いてあることが抽象的で、感覚的で、すごく「ぼんやり」している。 頭の中にあるふわっとしたものを、そのまま出力している感じを受けた。
しかし、本もそう安いものではない。 とにかく、一度は最後まで読もうと、ページを進めていく。
するとそのうち、その「ぼんやり」が積み重なって、深澤氏が脳内に描くデザインの「輪郭」が何となく見えてくる。
ふつうであることは、とても難しい。 奇をてらった、うけを狙ったデザインは、すぐにばれてしまう。すぐに飽きられる。
深澤 僕のデザインもそうですよ。デザインを見せるためにつくっていたから。かっこいいっていわれなきゃいけないみたいな。 (p.96: 「ふつう」より)
深澤氏はそんな時代を経て、現在の形にたどりついたようだ。
今の深澤氏のデザインは、極限の「ふつう」を追求している。 そこにあることが自然であり、必然であるもの。
先のCDプレイヤーや「お皿つきライト」など、「ふつう」を追求した製品たちを生み出した背景、想い。 それが、飾ることのない生の言葉で語られている。
半分ほど読み進めると、「短命なデザイン」という章に入る。 めまぐるしく変化する近年のプロダクト、特に電子機器に対するデザインについて、その寿命の短さへの懸念が書かれている。
自分がデザインに込めたエナジーや思いが、どんどん消費されていく空しさを感じているのではないかと思っている。 (p.175: 「短命なデザイン」より)
魂と愛情を込めたデザインが、ものすごいスピードで「消費」されていく。 やるせない想いが、文面から伝わってくる。
深澤氏は、一度見たら忘れないあの「INFOBAR」もデザインしている。 文中では具体的な製品については触れていないが、INFOBARも同じような感情を抱きながら仕上げたのだろうか。
ところどころに、氏が携わった製品や別荘の写真が差し込まれている。 あるページの写真を見た瞬間、ビビッときた。
±0の「上履きバッグ」である。
注意書きなんていらない。 バッグの底が靴底ということは、床に置くもの。 そういうバッグ。
そのカタチが、人の無意識を導くのだ。
深澤氏が描くぼんやりとした「デザインの輪郭」が、またひとつ、積み重なっていく。
正直なところ、1回読んだだけでは、正しく受け取れたかどうかがわからない。
この本はきっと、何度も読み直して、少しずつ輪郭を見出していくものなんだろう。 今でも時間を見つけては、読みなおしている。
あとがきを読むとわかるが、また深澤氏が自身について語ってくれるのは、かなり先のことになりそうだ。
これからまたデザインをしていく中でのいろいろな思いがたまるまで、当分は本を書かないと思う。 (p.288: 「おわりに」より)
深澤氏のデザイン観を垣間見ることのできる、貴重な書籍となっている。